普段の臨床業務では下記のような印刷されたデータを見ることが多い.ほとんどのセラピストはこのデータのどこに着目すべきか?判定はどのように出力されるかが分からないことがあるのではないだろうか?本項では、Sナビを用いた評価の判定および出力されるデータについて紹介し、Sナビを用いたドライビングシミュレータ評価が階層性モデルにおけるどの部分の評価を担っているのかについて紹介する.
反応検査のABCDE判定は、収集された30~59歳、同年代健常者との比較結果をもとにして判定される(A:優秀、B:良好、C:普通、D:注意、E:不安).単純反応、選択反応については、Honda以外のメーカーとも構成が同一である.ハンドル操作検査、注意配分・複数作業検査についてはメーカーによって構成に差がある.特に、Sナビのハンドル操作検査は、対象者が車幅感覚をつかみにくいことが多く、高齢な方は順応に時間がかかったり、酔ってしまう問題がある.
反応検査の速さをもとにどう判断するかについては、著者の私見であるが、30~59歳と同年代との比較結果で、C:普通以上の判定であれば健常者と同等と考え、反応が遅れるなどのリスクは比較的抑えられていると考える.ただし、リスクに関して注意していただきたいのは、絶対大丈夫というゼロリスクは不可能なので、どこまでのリスクならば許容できるかという考え方を持つべきである.
危険予測体験での事故・危険・注意・安全という判定は対象物(車両や歩行者)との距離や走行速度など、設定された閾値内のどのレベルにあるか(どれくらい速度を出したか?どれくらい対象物に近いか?)という結果で判定されている.したがって、対象者がどんな運転行動や判断ミス等の文脈で事故に至ったかの文脈や過程までは判定していないという点に注意が必要である.このことを考えると、対象者の運転を観察した評価者の主観と機械的に出力された判定結果に乖離が生じるのは不思議ではない.つまり、運転行動全体として歩行者や他車両に注意を向けられない危険な運転をしているが、対象物に衝突せずに距離をとって停止できたりしてしまうと、主観とは異なって安全と判定される.
総合学習体験について、はじめに注意しておきたいことであるが、この総合学習体験のABCDE判定のアルゴリズムは非常に怪しい.例えば、発進停止という項目があるが、その採点については、「急発進、不停止、急停止、駐車の仕方のデータを点数化し、その合計点から5段階評価したもの」(株式会社マネージビジネス:運転能力評価サポートソフト~補足資料~ Ver3.002R対応 2015/09/25更新)とされている.また、マネージビジネス社による補足資料を確認すると、反応検査のように判定の基準となったデータが総合学習体験には掲載されていない.つまり、この総合学習体験の判定は、判定の基準となった健常者データは存在しておらず、点数化についても何をもって点数化しているのかが不明である.また、合計点からの5段階評価とあるが、5段階評価の設定も不明な状態である.以上のことから、総合学習体験のABCDE判定を用いて運転再開可否を判定するような使い方は推奨しない.
環境別走行体験、ロングドライブコースについては判定がないコースである.つまり、危険予測体験や総合学習体験のように走行後の結果(5段階評価、走行地図)は表示されない.そのため、評価者の主観評価や発生したイベントに着目した評価が中心となる.特にロングドライブコースについては、長時間の走行となるため、注意の持続性の側面についても併せて評価することができる.
コースの詳細については、環境別走行体験については、雨1、夜間1、雪2、高速2の計6コースがある.視界が悪い状態がメインとなるため、環境別走行体験の難易度は危険予測体験上級よりも高い.一方、ロングドライブコースについては、通常3、短縮3の計6コースがある.ロングドライブコースの難易度は走行コースが長く設定された危険予測体験のイメージである.
自動車運転における運転行動モデルとして、Michonの階層性モデルが取り上げられている.Michonの階層性モデルは、運転能力が3つのレベルから構成されていることを示している.Operationalレベルは最も時間が短い下位のレベルで、短時間での自動的な運転行動を示す.例えば、ハンドル操作やブレーキ操作など、ドライバーが無意識のうちに行っている運転行動を指すことが多い.次に
下記はMarshallらのシステマティックレビューにおいて、各レベルで求められるComponentをまとめた